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心理学ワールド 83号 特集 景品表示法と消費者の認識について 大元 慎二(消費者庁) | 日本心理学会

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Academic year: 2021

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17 商品広告と選択  本稿は,今回の特集テーマ「商品広告と選 択」に関連し,平成29年7月に消費者庁が公表 した景品表示法に係る実態調査結果の概要を紹 介させていただくものである。 景品表示法と一般消費者の認識  景品表示法は「不当景品類及び不当表示防止 法」という法律名であり,その名のとおり,過 大景品と不当表示を禁止するものであり,いず れも一般消費者の自主的かつ合理的な選択を歪 める事業者の行為を規制するものである。  景品表示法の規制のうち不当表示規制は,自 己が供給する商品又はサービスに係る表示で あって,実際のもの又は競争業者のものよりも 著しく優良(商品又はサービスの「内容」に係 る場合)又は有利(商品又はサービスの「取引 条件」に係るもの)であると一般消費者に誤認 されるおそれのある表示等を規制している。こ の誤認とは,実際の商品・サービスと一般消費 者が当該商品・サービスに関する表示から受け る印象・認識との差が生じることをいう。した がって,本法では,一般消費者が表示からどの ような認識を受けるかが違反になるかどうかの 大きなポイントの一つとなる。 打消し表示の実態調査 Ⅰ.調査の目的  一般消費者に対して,商品・サービスの内容 や取引条件について訴求するいわゆる強調表 示(事業者が,自己の販売する商品・サービス を一般消費者に訴求する方法として,断定的表 現や目立つ表現などを使って,品質等の内容や 価格等の取引条件を強調した表示)は,それが 事実に反するものでない限り何ら問題となるも のではない。ただし,強調表示は,対象商品・ サービスの全てについて,無条件,無制約に当 てはまるものと一般消費者に受け止められるた め,仮に例外などがあるときは,その旨の表 示(いわゆる打消し表示:強調表示からは一般 消費者が通常は予期できない事項であって,一 般消費者が商品・サービスを選択するに当たっ て重要な考慮要素となるものに関する表示のこ と)を分かりやすく適切に行わなければ,その 強調表示は,一般消費者に誤認され,不当表示 として問題となるおそれがある。  近年,インターネットやスマートフォンなど 新たな広告媒体が大きく進展しているなどの状 況を踏まえ,我が国における打消し表示の全般 的な状況を把握するために約500点の表示物を 収集の上,収集した広告の特徴を踏まえて当庁 が作成した広告表示例を用いて幅広い年代の者 1,000名の意識調査を行った。そして,調査結 果を踏まえ,どのような表示方法が景品表示法 上問題となるのか,その考え方を整理した。 Ⅱ.打消し表示の実態 ⅰ.打消し表示の類型  打消し表示が含まれている表示物の収集結果 を参考に,打消し表示を表示内容に基づき以下 のように分類した。 ①例外型(例外がある旨の注意書き) ②体験談型(個人の感想である等の注意書き) ③別条件型(何らかの別の条件が必要である旨を述べ

景品表示法と

消費者の認識について

消費者庁表示対策課長

大元慎二

(おおもと しんじ) Profile─大元慎二 2016年6月より現職。著書は『打消し表示の実態と景品表示法の考え方:調査報 告書と要点解説』(編著,商事法務)など。

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18 ⅲ.打消し表示に対する一般消費者の認識 (1)普段どれくらい打消し表示に意識を向けて いるか  Webアンケート調査において,注意書きや 注釈について普段どれくらい意識しているか媒 体別に質問したところ,「見ない(読まない)」 と回答した者の割合は以下のとおりであった。 媒体 回答率 新聞広告 58.9% 動画広告 67.4% 同一画面内にある表示 Web 広告(PC) 57.1% Web 広告 (スマートフォン) 70.0% 強調表示からスクロール が必要な場所にある表示 Web 広告(PC) 64.6% Web 広告 (スマートフォン) 75.1% (2)打消し表示を読まない理由  Webアンケート調査において,普段から打 消し表示を見ない(読まない)という回答者に 対し,その理由を質問したところ,主な回答は 以下のとおりであった。 同一画面内 にある表示 強調表示から スクロールが 必 要 な 場 所 にある表示 新聞 広告 動画広告 Web 広告 (PC) Web 広告 (スマート フォン) Web 広告 (PC) Web 広告 (スマート フォン) 主 要 な メ ッ セージだけ見 れば十分と思 うから 24.3 28.8 21.9 18.7 19.8 17.3 文字が小さく て読みにくい から 30.1 26.7 28.0 27.0 26.2 26.6 文字を読むの が面倒だから 31.1 20.3 34.9 29.4 35.4 31.0 表示されてい る時間が短く て読み切れな いから ― 35.8 7.2 5.9 5.9 5.5 (単位:%) る注意書き) ④非保証型(効果効能を保証するものではない旨を述 べる注意書き) ⑤変更可能性型(予告なく変更する可能性がある旨を 述べる注意書き) ⑥追加料金型(強調表示で示した代金以外の金銭が 追加で必要になる旨を述べる注意書き) ⑦試験条件型(一定の条件下での試験結果,理論上の 数値等である旨を述べる注意書き)  また,表示物を媒体別・類型別に集計すると 以下のとおりであった。 新聞広告 動画広告 Web 広告(PC)(スマートフォン)Web 広告 例外型 27.5 29.9 31.9 30.9 体験談型 34.6 12.0 16.8 24.5 別条件型 11.1 17.9 12.4 18.2 非保証型 5.2 10.3 14.2 11.8 変更可 能性型 9.2 12.0 9.7 1.8 追加 料金型 4.6 9.4 9.7 10.0 試験 条件型 5.9 3.4 5.3 1.8 (単位:%) ⅱ.各媒体における打消し表示の実態  打消し表示の表示方法の態様について,媒体 別に整理したところ,以下のとおりであった。 媒体 打消し表示の態様 新聞広告 ◦ 8ポイント未満の小さな文字で表示され ているものが56.9% ◦ 打消し表示の配置場所は強調表示から 「5cm 以内」が最も多く,76.5% 動画広告 ◦ 打消し表示の表示時間が2秒以下のもの が42.4% ◦ 「打消し表示が後・別画面」に表示され るものが,20.3% Web 広告 (PC) ◦ 強調表示から打消し表示までスクロールする必要があるものが21.2% Web 広告 (スマートフォン)◦ 強調表示から打消し表示までスクロールする必要があるものが13.6%

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19 商品広告と選択 Ⅲ.打消し表示の態様と景品表示法上の考え方  例えば,打消し表示の文字が小さい場合や, 打消し表示の配置場所が強調表示から離れてい る場合,打消し表示が表示されている時間が短 い場合等,打消し表示の表示方法に問題がある 場合,一般消費者は打消し表示に気付くことが できないか,打消し表示を読み終えることがで きない。また,打消し表示の表示内容に問題が ある場合,一般消費者は打消し表示を読んでも その内容を理解できない。このように消費者に 認識されないような打消し表示を行っている場 合には,景品表示法上問題となりうる。  今回の調査では,「表示方法」,「表示内容」 及び「体験談」という三つの観点から,具体的 な表示例を6例作成して,消費者がどのような 場合に誤認するのかを調査分析し,景品表示法 上の考え方を整理したが,本稿では誌面の関係 上,体験談について紹介する。今回紹介した表 示例を含め,消費者庁のホームページに報告書 を掲載しているので興味のある方は参照いただ きたい。 Ⅳ.「体験談」を用いる場合の打消し表示  商品・サービスの広告における体験談及び打 消し表示について,制作した表示例を用いて, 一般消費者の意識調査を行った。 ⅰ.調査結果 (1)体験談の表示例(後掲の図1参照) 強調 表示 体験談①「毎日たった2錠飲むだけ。忙しくて も続けられるから助かります。」の文字 体験談②「『お腹周りがスッキリした』と最近, 妻も満足げです。」の文字 体験談③「カロリーを気にせず食べられる! ガマンしなくていいって幸せ!」の文字 体験談④「あきらめていた服が入った 鏡を 見るのがたのしくなりました。」の文字 打消し 表示 「※個人の感想です。効果には個人差がありま す。」の文字 (本稿注)表示例の中央下部に記載してある。 (2)調査結果 ◦表示例の体験談に気付いた回答者(1000人 中443人)のうち,効果に関する各認識を抱い た回答者の割合は,次表のとおりであった。 効果に関する認識 回答者の割合 「『体験談と同じような効果』が得られる 人がいる」と思う 53.0% 「『大体の人』が効果を得られる」と思う 42.2% 「自分に効果がある」と思う 39.3% ◦体験談に気付いた回答者の中でも,利用者一 般への効果の範囲について「『大体の人』が効 果を得られる」と思った者(187人)のうち, 33.7%が「この商品の購入や契約を検討しても 良いと思う」と回答した。 ◦今回の調査では,表示例を1回見せて質問を 行った後,さらに打消し表示を赤枠で囲んでこ れを認識できるようにして再度質問を行った。 1回目に体験談には気付いたが,打消し表示に 気付かなかった回答者(369人)に対し,打消 し表示を再提示した結果では,下表のとおり, 効果に関する認識が大きく変化することはな かった。 回答者の割合 効果に関する認識 1回目 2回目 「『体験談と同じような効果』が得 られる人がいる」と思う 55.0% 48.8% 「『大体の人』が効果を得られる」 と思う 42.8% 36.6% 「自分に効果がある」と思う 41.5% 35.2% ⅱ.体験談に関する景品表示法上の考え方  今回の調査結果から,実際に商品を摂取した 者の体験談を見た一般消費者は「『大体の人』 が効果,性能を得られる」という認識を抱き, 「個人の感想です。効果には個人差がありま す」,「個人の感想です。効果を保証するもので はありません」といった打消し表示に気付いた としても,体験談から受ける「『大体の人』が 効果,性能を得られる」という認識が変容する ことはほとんどないと考えられる。  このため,例えば,実際には,商品を使用し ても効果,性能等を全く得られない者が相当数 存在するにもかかわらず,商品の効果,性能等 があったという体験談を表示した場合,打消し 表示が明瞭に記載されていたとしても,一般消 費者は大体の人が何らかの効果,性能等を得ら れるという認識を抱くと考えられるので,商 景品表示法と消費者の認識について

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20 品・サービスの内容について実際のものよりも 著しく優良であると一般消費者に誤認されると きは,景品表示法上問題となるおそれがある。  つまり,消費者は効果を語る体験談は当該商 品の効果そのものと認識することからこれを広 告に掲載する場合には合理的根拠のある当該商 品の効果と適合した内容でなければならず,そ れを超えていたり,あるいは一部にしか認められ ないような効果に言及する場合には,景品表示 法上問題となるおそれがあるということである。 おわりに  最後に筆者の所感に触れたい。上記「Ⅰ.調 査の目的」及び「Ⅱ.打消し表示の実態」で我 が国における打消し表示の実態の概要を紹介さ せていただいたが,これを見る限り,我が国の 広告表示において打消し表示が多用され,また, その表示時間や形態等から,消費者が適切に認 識できるような表示方法となっているとは言い 難い実態も判明した。また,消費者の基本的な 認識として,消費者は打消し表示があること自 体は認識しつつ,性善説的な国民性向があるた めなのか,多くの場合,個々の広告表示におい ては,打消し表示を見ていないことが判明した。  事業者が広告表示において自社の商品やサー ビスが従来品や競争業者のものよりも優れてい ることなど消費者に訴求したい事項を強調して 表示したいのは当然であろう。他方で,消費者 保護の観点からすれば,消費者の誤認を招くお それのある表示が許容されてよいはずはない。 営利活動を行う事業者のニーズと消費者保護を 広告表示においてうまくマッチさせるために は,まずは事業者が,強調表示の内容が例外等 なく商品,サービスの内容そのものとなるよう に努めることが必要である。止むを得ず打消し 表示が必要な場合には,消費者に適切に認識さ れる表示方法・内容とすることが必要であり, もし現状消費者に適切に認識されないおそれの ある表示がなされている可能性があるのであれ ば,その改善に速やかに取り組む必要がある。  本調査報告書においては,事業者が景品表示 法違反行為の未然防止のために広告を事前に チェックする際には一般消費者の視点の活用が 重要と指摘しているが,効果的な広告表示と消 費者への適切な情報提供を広告表示において両 立させるためには,消費者心理の分析と応用が 重要な鍵となっているのではないかと考える。 消費者庁では本調査の続きとして,スマート フォンの表示についての報告書を本年5月に公 表したが,ここではスマートフォンの特徴であ る縦に長く続く画面情報と作業記憶の関係等, 認知心理学の観点からの考察も加えている。ま た,6月には専用の機器を用いて消費者の視線 と認識を検証した報告書を公表している。心理 学とマーケティングなど複数領域にわたる横断 的な研究の広がりと深化に期待したい。 図 1 体験談の表示例

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